『  あたらしい年  

 

 

 

 

 

  カラリ。  テラス側の窓をいっぱいにあけた。

 

ほほを刺す冷気がどっと入ってきたが、 清冽な空気がとても心地よかった。

「 ふ 〜〜〜 ・・・・ ああ いい気持ち ・・・! 」

フランソワーズは いっぱいに息を吸い込むと精一杯に伸びをした。

「 ・・・ ふ ふ ふ 〜〜〜  あ〜〜 肺の底まできれいになったわ〜〜 」

きらきらお日様は輝いているけれど、パジャマ姿に12月の朝の空気はさすがにキツイ。

「 う ・・・ やっぱり寒いわねえ〜〜  こんなにいいお天気なのに・・・

 あ 海の側だから、かしら。 」

耳を澄ますまでもなく、この家では四六時中寄せては返す波の音がきこえている。

この地に来た当初は気になっていたが、じきに慣れてしまった。

街中からかなり離れた辺鄙な地だが 人目がない点ではかえって気楽だ。

今はただ、この温暖な気候の地で穏やかな日々を送れることに、彼女は心から感謝している。

「 クッシュン! ・・・ わ〜〜 早く着替えなくちゃ。 お気に入りを着るわ。 

 あと一週間でクリスマスですものね。 」

彼女はご機嫌ちゃんで クローゼットのドアを開けた。

 

とんでもない運命の嵐に巻き込まれた仲間たちは ほとんどが故郷に戻っていった。

今 この極東の地に残るのはギルモア博士と001 そしてフランソワーズと

この国の出身である009だけだ。

006は ここからそう遠くもないヨコハマに店を構えるべく東奔西走しているし

相棒の007はといえば 今は本業の俳優業と戯曲家としての活動のためロンドンに戻っている。

 

「 クリスマスにはごミサに参加して静かにすごしましょう ・・・ 今のわたしには

 それがきっとそれが一番なのよ。 あ ・・・ この近くに教会かるかしら・・・

 そうね、世界中に教会はあるはず。 あとでジョーに聞いてみるわ。

 さあ〜て 本日も頑張らなくちゃ ね! 」

きりっとエプロンのヒモを結ぶと、彼女は にっこり☆ 鏡の中に自分に笑いかけた。

この邸に住むようになり、フランソワーズは今、< 女主人 > として実質的にこの邸の

采配をふるっている。

 

  トントントン ・・・ 階段を降りて リビングのドアを開ければ 

 

「 おはようございま〜す    え!?!??  ジョ  ジョー??? 」

「 あ  やあ おはよう〜〜 フランソワーズ〜〜 

誰もいないと思っていたリビングには 例の茶髪ボーイが掃除機と雑巾を手に立っていた。

「 な にをしているの??? 」

「 え あ〜 大掃除。 ううん、大掃除の前の準備。 だってもうあと半月しかないからね! 」

「 ??? なにがあと半月なの 」

「 なにって < 今年 > だよ。  さあ〜〜〜〜 ぼくはリビングと玄関を

 引き受けるから。  きみにはキッチンを頼めるかなあ 」

「 ・・・ 頼むって なにを?  あの 朝ご飯ならすぐに作るわよ? 」

「 あ〜〜 うん。 朝食のあとでいいよ、もちろん。 

 そうだ〜 レンジ・フードとか換気扇はぼくがやるから。 え〜〜と 用具はね

 あ ・・・ 今 もってくるよ。 」

ジョーはきっぱりとデニムのエプロンをし、ゴム手袋も用意してきぱきと指示をする。

 

   まあ〜〜 ・・・ 珍しいこともあるものねえ・・・

   009がこ〜んなに積極的に家事をやるなんて  ・・・・

 

フランソワーズは 半ば呆れ半ば感心して茶髪ボーイの顔を眺めていた。

普段は役割分担として ジョーは風呂場とトイレの掃除、そしてガレージと外回りが担当なのだが

 特に熱心に取り組んでいるとも思えない。

一応 ― ノルマをこなしている、という程度だ。

 

「 あ  あの ・・・ ジョー? 」

彼はあっと言う間に裏庭のストレッジに行きすぐに戻ってきた。

「 ほら ・・・ 住居用の洗剤と〜〜 ゴム手袋。 しっかり使った方がいいよ〜〜

 きみの白い手が荒れてしまったら大変だからね〜〜 」

ぽん、とゴム手袋が渡された。

「 あ … ありがとう ・・・ 」

「 クレンザーはこれ。 え〜〜と ・・・ タワシとかもいるかな〜〜 」

「 たわし ・・・? 」

「 うん。  シンクは金属タワシじゃマズイと思うよ。 あ! 粗大ゴミ〜〜〜 !

 最終はいつだっけ??  そうだ〜〜 生ごみはコンポストでいいよね。 」

「 …ずっとそうしているけど ・・・・ 」

「 あ そうだったよね〜〜  え〜と それじゃ食事の後にキッチンを頼みます。 」

彼はにっこり笑うと さっそくリビングのソファを移動し始めた。

「 ???  ジョー ・・・・? あの〜〜 なにをするつもり? 」

「 へ ?? なに って ・・・ 大掃除だけど。 

「 おおそうじ??  あの・・・ お掃除ならいつもちゃんとやっているわ? 」

「 うん。  でも年末だから。 」

「 年末だから?? 」

「 うん。 二人で分担すればすぐに終わるよね〜〜 あとは ・・・ 年賀状だろ

 それから ・・・あ! お節!  あ〜〜〜 きみ つくる? 」

「 はい?  おせち ??? 」

「 うん。 あ〜〜 やっぱ注文しよう、うん。 駅前のスーパーにカタログがあったはず・・・ 

それから〜  あ! 門松とかも。 あとで花屋さんにきいてみるね。 」

「 ????  カドマツ ???   ジョー・・・わたし、なにがなんだか ・・・ 」

「 なに・・・って 正月の準備さ。

「 しょうがつ?  ・・・ ああ ニュー・イヤー のことね。 」

「 うん。 も〜〜い〜くるね〜る〜と〜〜♪ ってさあ えへへ 幾つになっても

 なんとなく楽しい気分になっちゃうんだ♪ 」

「 ニュー・イヤーがそんなに楽しみなの?  あ カウント・ダウンとかするからね? 」

「 カウント・ダウン?  う〜〜ん どうかなあ … あんまりやったこと、ないなあ〜

 ともかく〜〜 もう日にちがないからね! ぱっぱと掃除しようよ。 」

「 いいけど ・・・ ふうん ・・・ この国のヒトはニュー・イヤーが好きなのね。 」

「 そうかもな〜〜 フランの国ではどうなの。 

「 え ・・・別に・・・ ニュー・イヤーよりクリスマスの方が好きだわね。

 クリスマスは家族で過ごすのよ、普通。 遠く離れていてもクリスマスには

 実家に帰ってきたりしるの。 」

「 ふうん ・・・ 日本のお正月だね〜〜 あ クリスマスの前には大掃除、する? 」

「 ?? さあ ・・・ 特には ・・・  ねえ ジョーはどうやってクリスマスを

 過ごすつもりなの。 」

「 え ぼく?  パーティとかには行けなかったからたいていは一人だったよ。

 あ そうそう クリスマスには ちゃんとごミサに参加するんだ。 」

「 まあ! ねえ 近くに教会があるの? 」

「 うん。 海岸通りの外れにあるよ。 あ ・・・ きみも行ってみる? 

 本当のツリーとかあって クリスマスっぽくてきれいだよ、 オンナの子は好きかも〜 」

「 わたしもごミサに与りたいの。 わたし カトリック信者よ。 」

「 え??? そうなんだ??? 」

「 フランス人はね たいていがカトリックなの。 ・・・ ジョーも? 」

「 うん。 ぼくは教会の付属施設で育ったんだ。 ず〜っと ・・・

「 ・・・ まあ・・・ 」

「 だからね〜 クリスマスのミサは必須だったよ。 後は教会の手伝いだったな〜

 クリスマスにはごミサの回数も多いし ・・・ 」

「 そうよね。  あの ・・・ よかったら一緒にごミサ、連れていってくれる 」

「 わあ〜〜 いいよぉ〜〜 えへ・・・嬉しいなあ〜 

 なんだかワクワクしてきた〜〜  さあ〜〜 掃除、 頑張るぞ〜〜 

ジョーは 掃除機をひょい、と担ぐとがしがしリビングの掃除を始めた。

「 えっと〜〜 あ あとで窓拭きたいんだ。  ガラス・クリーンみたいな洗剤、ある? 」

「 え … 窓用のね。 ・・・ ストックの戸棚、見ておくわ。 」

「 頼むね〜〜 もしなかったら買い出し、行ってくる〜

 ふんふんふ〜〜〜ん♪  じんぐるべ〜〜る〜〜 っと 〜〜〜 」

ハナウタ混じりに ジョーはどんどん掃除をしてゆく。

 

    へ ええ ・・・  このヒトって。

    こんな風なヒトなのねえ ・・・

 

    もしかして掃除大好き人間??

    ― な〜〜んか貴重よねえ〜 こういうヒトって♪

 

    ・・・り  理想のダンナさん かも〜〜

 

 

仲間ウチでの新人、 最新型で最強とのレッテルだがイマイチ謎な人物への評価が

イッキにアップに転じた ・・・ らしい。

「 あ〜〜 じゃあ わたし、朝ご飯作るわね 」

「 うん 頼むね〜〜  食後に買い出しにゆくからさあ〜〜 

 必要なもの、メモしといてね〜〜 あ 博士にも声をかけておいてくれる 」

「 え ええ  わかったわ。 

「 さ〜〜〜あ 忙しくなるぞぉ〜〜〜♪ 

 ふんふんふ〜〜ん   も〜〜〜〜い〜〜〜くつね〜る〜と〜〜♪ 」

 

     ・・・ だ 大丈夫 かしら ??

     どこか回路がショートしたの??

 

     今週の分の買い出しは 昨日済ませたわよねえ 

      ― それとも ・・・

 

     ニュー ・ イヤーって。 ジョーの国のヒトには

     そんなに大切なコト なの ???

 

     う〜〜〜〜ん ・・・?

     イマイチ 謎、とか ・・・奥が深いというか ・・・

     やっぱり 旦那さん候補リスト からは

     削除した方が 無難 かも ・・・

 

009の評価は どうやら急落しそうな雰囲気である。

 

 

 ― さて一週間後〜

 その年のクリスマス、崖っぷちの洋館では穏やかに慎ましく、そして暖かい時間が

流れていた。

クリスマス・ツリー は 005がモミの木の大枝を送ってくれた。

「 素敵!  ・・・ ああ もみの木のいい匂い〜〜〜〜

 ふ〜〜ん ・・・ この香をかぐと クリスマス〜 って嬉しくなるのよ。 」

「 わあ 〜 すごい枝だねえ ・・  」

「 ねえ これ・・・ 枯れないようにできるかしら。 

「 う〜〜ん ・・・ 根っこがないからなあ  あ でも水がある環境にすればいいか。

 大きな花瓶 ってかバケツの方がいいなあ 」

「 バケツ!  わかったわ、さがしてくる!  

「 よ〜し それじゃ周りをぶろっくで固めて〜〜 」

二人でさんざん苦労して ― 樅の木の大枝はなんとかクリスマス・ツリーに仕上がった。

「 う〜〜ん こんなもんかなあ 」

「 ステキ!  ウチのクリスマス・ツリーね! 」

「 飾るもの、なにかあるかなあ〜〜 買ってこようか 」

「 そんなに派手なものじゃなくていいの。  星とあのキラキラした玉 ・・・ 」

「 あ〜〜 いいね  駅の向こうのショッピング・モールで売っていると思うよ 

 ぼく、買いにいってくる! 」

「 ・・・ あ  あの ・・・ わたしも一緒に行っても いい? 」

「 あ  うん!!!  ね 一緒に買い物、行こうよ〜〜 」

「 ええ !  あ ちょっとだけ待ってて!  すぐ支度してくるから! 」

「 そんなに慌てなくていいよ〜う ちゃんと待ってるから さ 」

「 ありがと ジョー 」

ばたばた ・・・ 彼女は二階の自室に駆けて行った。

 

 そして その日。  ジョーとフランソワーズは 初めて二人きりでお出かけをした。

 

 ― 数時間後

「 ふ〜〜〜〜 結構混んでいたねえ〜〜 

「 ・・ すごいヒト・・・ 」

ショッピング・モールからでてきた二入は か〜なりよれよれしていた。

ジョーは軽いけど嵩張る荷物を抱え 周囲に当たらないか気を使っていたし、

フランソワーズは 人波に上手に乗れずあっちこっちに<流され>たりした。

「 ・・・ ね ・・・ この国って いつもこんなふうなの? 」

「 あ? う〜〜ん 今日はクリスマス前だから普段よかちょこっと混んでたけど・・・

 暮れになるとこんなもんじゃないと思うな 」

「 え ・・・ もっと人が多くなるの? これ以上? 」

「 多分ね〜  あ でもこの辺は住民もそんなに多くないから大混雑ってほどでもないよ。 」

「 ・・・ もっともっと混むところがあるの? 」

「 あ〜 うん。 ぼくもTVで見ただけだけど ・・・ 東京のアメ横とか

 大都市の有名な市場とかでは ラッシュ並だったよ。 

「 らっしゅ?  あの ・・・ 朝の電車みたいってこと?  なぜ??? 

「 新鮮で美味しい食品とかが安く買えたりするんだって。 

「 へえ ・・・ わたしはここの商店街でいいわ ・・・ 

 だってほら ・・・ お野菜でもお魚でもとても美味しいわ。 」

「 そうだよねえ  ・・・ あ 帰りにその〜〜〜 お茶してく? 」

「 お茶??? 」

「 ウン。 そのう〜〜 人ごみで咽喉、乾いたりしない? 」

「 あら それなら ・・・・ ほら さっきケーキ買ったでしょう?

 ウチで博士もご一緒におやつ・タイムにしましょうよ。 グレートから美味しい紅茶も

 届いているし。 」

「 あ ・・・ うん  そ そうだね 」

「 うふふ〜〜 キレイなオーナメントも買えたし♪ さっそくツリーに飾りましょ。

 ・・・ クリスマスを祝うって ・・・ 何年ぶりかしら ・・・ 」

晴れ上がった空を 碧い瞳がすう・・・っと見上げている。

白い頬に淋しい影をみつけたのは ジョーは見間違えなんかじゃないと思った。

「 ね、 きみの国のクリスマス、教えてくれるかな。 どんな過ごし方をするのかな。

 ぼくは育った教会でのクリスマスしかしらないから ・・・ 普通の家ではどうするの。」

「 特別なことはしないのよ。 家族でツリーを囲んで ・・・ そうだわ、ケーキ焼くわね 」

「 え!  く クリスマス・ケーキ ??? き きみ 焼けるの?? 

「 ええ ・・・ よく母の手伝いをしてたから大丈夫。 」

「 え〜〜〜  わ〜〜 すご〜い〜  クリスマス・ケーキ、作れるんだ〜〜 

「 ブッシュ ノエル 焼くわね。 」

「 ぶっしゅ・・・?  あの!  特別な材料 いるのかな? ヨコハマまで買いにゆくよ! 」

「 いいえ、家にあるもので大丈夫なはずよ。    ショコラと生クリームがいるかしら・・」

「 今、戻って買ってくるよ!! どこのメーカーのとか書いてくれる? 」

「 普通のでいいのよ、特別なのじゃなくて。 ウチの方の商店街でも売っているはずよ。」

「 そっか♪  あ〜〜〜 は〜〜やくゥこいこい〜〜 クリスマス〜〜♪ 」

「 うふふ・・・ ツリーの飾りつけとか 一緒にやりましょ。」

「 うん!  よいっしょ・・・! 」

「 あ その袋、わたしが持つわ。 」

二人は大荷物を抱えて 岬の < 家 >へと帰っていった。

 

 

聖夜の夜、 若い二人は連れ立って地元の教会に足をむけた。

「 ふぁ〜〜〜 夜中になるとさすがに寒いね〜〜〜 」

ジョーの吐く息が白くもわもわと流れる。

「 ほんと!  このお家に住み始めてから・・・こんなに寒いのは初めてよ。

 パリでは冬には当たり前だったけど・・・ ここは本当に暖かいんだなあって思っていたの。」

フランソワーズも頬に両手を当てている。

「 この辺りはこんなに冷えるってこと、ほとんどないんだ。 寒 〜〜〜 」

彼はどたどた足踏みをし、盛んに手をこすり合わせる。

「 今年は特別に寒い冬なの? 」

「 う〜〜ん どうだろ?  ま 時間が時間だから かもな。 」

「 あ そうね。  深夜ミサってものすごく久しぶりだわ。 」

「 あは ・・・ ぼくは子供のころはいっつもお御堂の後ろの席で居眠りしてたよ。」

「 わたしも小さな時には 最後は眠っちゃったりしたわ。 」

「 今日は頑張って起きてるよ〜〜  さ 行こう。 」

「 ええ。  あ ・・・ 」

ぱっと差し出された大きな手 ― ・・・ ちょっと躊躇ったが 彼女は細い手を預けてくれた。

 

    えへへへ 〜〜   やったぁ〜〜♪

 

    ・・・ 暖かい手、ね  ジョー・・・

 

彼女の頬がうすく染まっているのは ・・・ 寒いからだけじゃない。

彼が長目の前髪をさっと払ったのは ・・・ 鬱陶しいからだけじゃない。

 

二人は手を繋いだまま 地元の街にある古い教会まで歩いていった。

穏やかな聖夜、 ひっそりと静かな落ち着いた時間が流れた。

 

    神様・・・ こんな平穏な日々を、ありがとうございます。

    静かに新しい年を迎えることができます・・・

 

フランソワーズは心から感謝の祈りを捧げていた。

 

      しかし!!!   < 静かに > 新年はやってこなかった!

 

 

 クリスマスの翌朝 ― ギルモア邸は掃除機の音がうなりを上げ始めた。

「 ・・・ ジョー??? あ あの ・・・ おはよう・・・? 」

「 あ おはよう フラン。 さあ〜〜 急がないと間に合わないよ〜〜〜 」

「 え ・・・なにが  」

「 大掃除。  クリスマス前にはざっとしか掃除できなかったから 今日から本番!

 さあ〜〜 窓拭きは今日中に完結させま〜〜す! 」

「 掃除は毎日ちゃんとやっているわ? 」

「 知ってるよ。 でもね 年末の大掃除は別なんだ。

 え〜〜と キッチンだけど、換気扇の掃除とかはぼくがやるから。 あとは頼みます。」

「 キッチンも毎晩ピカピカにしています。 」

「 うん、いつもきれいだよね。 でも年末だから。  もっと気持ちよく新年を迎えよう。 」

ジョーは にっこり笑うと さ・・・っと雑巾やら住居用の洗剤を差し出した。

「 今日・明日で家の中、それで明後日はテラスとか外回り、 あ! 門とかも

 磨いておかなくちゃあ〜〜 庭の掃除も 〜 

「 庭掃除は引き受けるぞ。 」

博士が 朝刊を手にリビングに顔をだした。

「 ワシが庭やら門の掃除をするよ。 ちょいと直したい個所もあるからなあ 」

「 あ そうですか〜〜 それじゃお願いします。 」

「 ああ 任せておけ 」

「 は〜い   え〜とそれじゃ ・・・ まずは窓拭きからだな〜〜 」

ジョーは雑巾と洗剤を手に リビングの窓に張り付いた。

 

     ま  まあ ・・・

     こんなに掃除が好きって ・・・ 知らなかったわ

 

     ―  でも いつもは自分の部屋の掃除もしないヒトなのに・・

 

「 あの ・・・ ジョー? 朝ごはん、つくるわね 」

「 ん〜〜〜〜 ♪♪ 」

「 ジョー?? ご飯を ・・・  ああ だめね、聞こえてないんだわ。 」

ちょっとばかり呆れた顔で 彼女はキッチンに引っ込んだ。

 

ジョー曰くの 大掃除大作戦 は、 ほぼ一日半でけっこう広いギルモア邸を制覇した。

「 ふ〜〜ん ・・・ まあ こんなモンかな〜〜〜 」

「 ぴっかぴかだわ ・・・ ジョーってばすごい・・・ 」

冬の日差しがなお一層明るく差し込む窓を見て 彼は満足の笑みを浮かべていた。

「 うん、掃除 クリア。 じゃあ 午後からは買い出し!

 え〜とそれでもってお節を作らないとな〜  あ フラン、きみ、つくれる? 、」

「 まあ なにを? 」

「 お節料理。 だてまき とか くりきんとん とか。 こぶまき とか・・・ 」

「 なにまき???  〜〜とん ってなあに。  こぶ?? 」

「 ・・・ だめか。 う〜〜ん じゃ 買ってこよう。

 え〜と お供えだろ、お雑煮用の餅に ・・・ あ! お飾り も買わなくちゃ! 

 ひゃあ〜〜  大変〜〜 」

ジョーはばたばた・・・・掃除用具を片づけ始めた。

「 あの ・・・ ジョー?  お昼ご飯 なにが食べたい? 」

「 え 〜〜〜 ?  ああ いいよ〜  ぼく、ちょっと買い物にゆくから。 」

「 え お昼 たべないの。 」

「 ちょっち時間ないなあ 〜 

「 それならサンドイッチにしましょうか? 」

「 ・・・ う〜〜ん できれば ・・・ お握り お願いします。 」、

「 まあ いいけど ― へたクソよ? 」

「 そんなこと、ないよ。  あ!  浅漬けももうなくなっていたよなあ〜

 え〜〜と ・・・ うん あれとこれと・・・ そんでもってあれも 」

ぶつぶつひとりで冷蔵庫の中身を点検している。

「 よし。  あ〜〜 フラン、よかったら そのう 一緒に 行ってクレマスカ・・・ 」

「 はい 了解。 お野菜選びとか任せてね。 」

「 助かりま〜す♪  あ!! 年賀状〜〜〜〜 やっば〜〜〜  」

ジョーはやたらとそわそわ落ち着かない。

「 ねんがじょう? あ ・・・ ニュー・イヤーのグリーティングカードのことね 

 まあ さすがジョーねえ、もうそんなに親しいお友達ができたの? 」

「 え? え〜とまず ギルモア博士にコズミ博士だろ。 それから イワンにジェットに

 アルベルトにジェロニモに張大人にグレートにピュンマ。 そして もちろんきみにも

 フランソワーズ♪ 」

「 え ・・・ だって同じ家に住んでいるのに?? 」

「 親しき仲にも礼儀あり、ってね〜 やっぱ一年の初めのけじめだし。

 わ〜〜〜 まだ間に合うかなあ〜〜  ピュンマのとこにはヤバいかも〜〜〜 

 あ あけおめメールにしよっかなあ〜 

「 あけおめめ〜る??? 」

「 うん。 メールで年賀状することなんだ。  まあね 年配の方にはちょっと失礼かな〜

 あ  そうだ。  ギルモア博士とコズミ博士あてには あの〜〜〜 

 そのう・・・ きみと連名にしても いいかな ・・・? 

「 ジョーと?  あら ありがとう〜〜〜 一緒にしてくださるの、うれしいわ。 」

「 わ〜〜〜 いいの? うっひゃほ〜〜〜♪ ( へへへ 公認カプみたいだ♪ ) 」

「 じゃ 買い物に行こうよ。 野菜の鮮度チェックとかお願いします〜 

「 はい 任せてね。 」

「 じゃ 10分後に門のトコに集合〜  

「 了解。  えっと・・・ ジョーがいるからいつものエコバッグで大丈夫よね 」

「 え〜と? 買い物カートと ・・・ そうだ、リュック背負ってゆこ・・・ 」

 

10分後。  手ぶらの女性と買い物カートを引っぱりおおきなリュックを背負った青年が

仲良くつれだって坂道を下っていった。

 

 ― さて そのスーパーの <年末年始・特設コーナー> で・・・

「 ・・・ ジョー ・・・ ここ ・・・ いつもの駅前すーぱー よね? 」

フランソワーズは 目を見開いたまま足がとまっている。

昨日まで普通に野菜やら果物が並んでいたり、お惣菜や弁当が置いてあったコーナーに

突如 赤と白の紙がず〜〜〜っと貼られた上に ちまちまこまこま色鮮やかなモノが登場した。

「 ・・・ 売り場 間違えたかしら 」

「 ふむ? 紅白かまぼこ に 黒豆、昆布巻き、数の子、う〜〜ん ・・・

 個別に買うよりもセットにするかなあ?  フラン、どう思う? 」

ジョーは慣れた様子で じっくり・とっくり眺めている。

なんだか自信と落ち着きに溢れている。

 

    あら ・・・ なんか ちょっと・・・カッコイイかしら。

    でも でも ・・・ これ なに??

 

「 ・・・ これ 食べ物なの? 」

「 へ?? そうだよ〜〜 おせち料理さ。 」

「 なんだかおもちゃのミニチュアセットみたい ・・・ 」

「 そうかなあ・・・ ふうん、そんな風に見えるのかなあ? 

 ね 根菜類の煮物とか紅白膾とか … 野菜系はウチでつくれる ・・・ かな 」

ジョーは次々に料理をみてゆく。

「 これ ・・・ みんなお野菜なの??? だって これ・・・パスタ?? 」

「 ううん、 これはね、大根と人参なんだ。 」

「 ・・・ 挑戦するわ。 」

「 わぁ〜〜〜 頼もしいなあ〜 よ〜し、それじゃ伊達巻 とか 錦卵 とか

 松毬牛蒡 とか 田作り とかはウチで作ろう! 」

「 ・・・ が 頑張ります ・・・ 

「 いいなあ〜〜〜 手作りお節なんて〜〜 感激だよ〜〜

 あ 勿論、ぼくも手伝います!  これでもね〜〜 家庭科、得意だったんだ〜 」

「 かていか??? 

「 うん、さいほう とか りょうり とかを習う学科さ。 」

「 ふうん ・・・ ジョー・・・ 縫い物もできるの?? 」

「 あは ボタン付けとか敗れた靴下直しとかはね。 自分のことは自分で! が

 施設での約束だったから ・・・  あ 卵 たまご〜〜 たくさん買ってゆかなくちゃ 」

「 すご ・・・ ねえ ねえ あのクリスマス・リースみたいのは なあに。

 アレも ・・・ 食べるの? 」

「 うん?  あ 〜 あれは飾り物、さ。 玄関とかに飾るんだ。

 あれもいっこ買ってゆこう。 そうだ〜〜〜 ミニ門松も!  花屋さん〜〜〜 」

彼は山盛りのカートを押して ずんずん進んでゆく。

「 花屋さん??  え ・・・ クリスマス・ツリー じゃなくて 

 おしょうがつ・つり〜 とかがあるのかしら???  」

フランソワーズは慌てて彼の跡を追ってゆく。

「 ジョー 〜〜〜 待って ・・・  わあ 〜〜〜 すごい!! 」

花屋のコーナーまで来て、またまた彼女の足は止まってしまった。

 

  ど ど〜〜ん。 店頭には丸く括られた竹と松のでっかいオブジェがあった。

 

「 わあ〜 こんなに大きいのってすごいね〜〜 」

「 ・・・ こ れ ・・・ おしょうがつ用のクリスマス・ツリー ?? 」

「 あは これね〜〜 門松っていってさ〜 門の前とかに飾るんだ。

 そうだね〜〜 お正月版・クリスマス・ツリーかもなあ〜 

「 ・・・ こ これ ・・・ 買うの? 」

「 いや〜〜 ウチには〜〜 ああ これがいいよ、カワイイじゃん 」

ジョーは松の枝と細い竹をまとめた手軽なものを選んだ。

「 これも かどまつ?? 」

「 うん。 門の両側に飾ろうよ。 あ!!! 大変だ〜〜 忘れちゃったよ〜〜 」

「 な  な なに???  」

「 お餅!!!  お供え餅と〜〜 お雑煮用の切り餅!! これこそ必須だよ〜〜 」

「 おもち?  あ それってこの前食べたわね? びよ〜〜んと伸びてモチモチして・・・ 」

「 ぴんぽん。  そうだよ〜〜 まずはお供え餅だよねえ〜〜 」

「 ??? おもち っておしょうがつに食べるものなの? 」

「 別に決まりはないけど〜 やっぱお正月には定番なんだ。 

 う〜ん いつかはウチで御餅つきやってみたいなあ 〜 

「 おもち って ウチで作れるの??? 

「 作るっていうか〜  まあ そうかなあ? でも臼とか杵がいるからなあ 」

「 うす ???  きね ??? 」

「 今は無理だけど いつかはね〜 ・・・あ あの〜〜〜 一緒にできるといいね 」

「 わたしにもできるの??? ね! 教えて!! やってみたいわあ〜〜  」

「 ほ ホント??  ( うわ〜〜〜♪ ) 」

「 ええ 一緒にやりましょ。 ねえ〜〜 ジョー、こんなに持って帰れる? 」

山盛りカートが二人の前にある。

「 もって帰る。 ― ぼくは 009 なんだ。 」

「 はいはい 頑張ってね。 」

「 え きみだって 003 ・・・ 

「 あら わたしは か弱い・女性 ですもの〜〜 ああ 卵は引き受けます。 」

「 ずる〜〜〜〜〜 」

「 じゃ 最強の戦士さん、お願いしま〜す 」

「 ・・・ 加速〜〜 

「 だめ!!!  皆燃えちゃうでしょ!  さ 帰りましょ。 

「 ・・・ ハイ ・・・ 」

「 おしょうがつ めざして〜〜〜〜 加速そ〜〜ち!  ね、ジョー? 」

「 ・・・ ハイ ・・・ ( サイボーグだって重たいよぉ〜 ) 」

卵のケースを手に 足取りも軽く坂道を上る美女の後ろを 

ぱんぱんのリュック背負った最強の戦士が  

 

   ガラガラガラ〜〜  これまた山盛りの買い物カートを引いて黙々とついてゆくのだった。

 

 

 

 

そしてその年のお正月、 ギルモア邸では賑やかにお節料理が並んだ。

「 ほう〜〜〜 これはすごい! 

是非 元旦にはお越しください、とご招待したコズミ博士が感歎の声を上げた。

 

ロール・ケーキ風伊達巻  ラタントゥイユ風野菜の煮物  ダイエット・パスタ風紅白膾

などなど・・・ 少々無国籍風料理が 定番のお節に花?を添えた。

 

「 あの ・・・ 頑張って作ってみたんですけど ・・・・ ちょっと違うかもしれません 」

「 え  そ そんなことないよ〜 ねえ コズミ博士! 」

「 ほっほ〜〜 これは美味しそうな伊達巻ですなあ 」

「 ほう? だてまき とはこういうモノなのですかな。 」

「 なに、家庭ごとにいろいろな味がありますよ。 こちらの伊達巻はこちらだけの味、ということで ・・・ 」

「 あ〜〜 では コズミ博士 ギルモア博士〜〜 音頭取りをお願いします〜 」

「 ほっほ それでは ― みなさん 明けましておめでとう〜〜 

「 おめでとうございます〜〜 」

お屠蘇で乾杯? した後、皆で < ウチのお節料理 > を堪能した。

 

「 ほっほ〜〜 この伊達巻は絶品ですなあ〜〜 

「 このサトイモ!! すばらしい〜〜 うむ うむ〜〜 」

「 〜〜〜〜 くりきんとん って♪ モンブラン付のまろん・グラッセね♪ おいし♪ 」

「 わ〜〜〜 わ〜〜〜〜  うま〜〜〜〜 」

「 まあ ジョーはなにが好きなの? 」

「 む〜〜〜〜・・・・きみの作ったモノなら 全部♪ 」

「 ほっほ〜〜 若いヒトらはいいのぅ〜〜 ほれ もう一杯どうかな 」

「 わ ・・・ ありがとうございます 」

「 博士、白ワインも用意しましたの、いかが? 」

「 おお〜〜〜 ・・・ ああ これはとても料理に合うのう 」

わいわいがやがや ― < ウチのお正月 > はおおいにもりあがった。

 

 

 ― そして  歳月は流れ ・・・ ある年の暮れ

 

「 ほいほい〜〜〜 搗きたての餅だよ〜〜〜 」

「 おか〜〜さん〜〜 すごいの〜〜 ねえ こうやってね〜〜  ぺった〜〜ん! 」

「 おか〜さん おか〜さん  おもち〜〜 おもち〜〜〜  」

ジョーが自転車で勝手口まで直行してきた。

すぴかとすばるも 顔を真っ赤にして自分の自転車で付いてきた。

「 まあまあ 皆〜〜 ご苦労さま。  うわあ〜〜 いい香りねえ〜〜 

「 な? もうねえ〜 米屋さんの前は大盛況だったよ。 」

「 今時、御餅つきをしてくれる御米屋さんってスゴイわよねえ〜 それも

 えっと ・・・ なんだっけ?  あの道具・・・  」

「 うす と きね! 」

すぴかがすかさず 答えてくれた。

「 そうそう ソレで ね。  あ ジョー、小型のお供えは 」

「 うん、切り餅も少し添えてコズミ先生のところに届けてくる。 

「 お願いね〜  元日はいつもの通り、お出かけくださいってお伝えしてね。 」

「 オッケ〜〜  すぴか すばる〜〜 さあ 配達だ 」

「 うわお〜〜〜 ねえ アタシ! おもち、もってく! 」

「 ぼ 僕も〜〜 」

「 あ じゃあ すばるは 伊達巻 をお願い。」

「 ウン! 」

「 じゃ 行ってくるね。 うふふ〜〜 今年もきみのお節、楽しみだよ〜 」

「 うふふ いってらっしゃい 」

ジョーは再び子供たちを従え 自転車隊は発車していった。

 

島村さんちのお正月の準備、門松はお父さんの手作りで お母さんの作るお節料理は

お店で買うよりもずっと美味しい。

ロール・ケーキ風伊達巻 は この家の定番で皆の大好物だ。

皆ではりきって大掃除して あたらしい年を迎える。

 

      そして ― ず〜〜〜っと変わらなのは 熱々の二人♪

 

 

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Last updated : 12,30,2014.                       index

 

 

**********   ひと言   **********

こりゃどう見ても 平ジョー と 平フラン ですにゃ♪

お節料理って よ〜〜〜くみると不思議なもの、多いですよね

フランちゃんには とて〜〜も  ??? だっただろうなあ〜

皆さま〜〜 よいお年をお迎えくださいませ〜〜